Vol.102

Vol.102

東京に戻った父は、どの様な「つて」が、あったか私など知る由もないが

どこからか、スキー靴の中古品や壊れているがそれらしい靴を集め始めた。

そして修理の完成度を上げるための道具なども集め、これらを運ぶために

若い弟子を一人連れて再度スキー場に現れたのである。

スキー場では相変わらず面白い様に靴が壊れ、中にはとても修理出来ない

靴も多く出た。そこで持って行った中古品を薦めるのである。

その時代スキーなどを楽しめる人達は限られており、中でもスキー靴を

よく壊すのは若い大学生が多く、その大学も限られていて父が言うには

裕福な子弟が多い〇〇ボーイと呼ばれている学生が多かったらしい。

今では考えられない事が起こる。片足だけ修理不能となり、「どうしても

片足だけ売ってほしい」と言うが、サイズが合わない。「それでも構わないので

売ってほしい」と・・・。 丸文のご主人はスキー金具の調整が出来る人で

サイズの違う靴でも金具で調整して使える様にした。

カンダハーと云う金具だった。凄い時代である。しかも儲かった。

滞在費を払っても相当の利益が出た。「その売上金が東京に戻れば

もっと早くお父さんは独立が出来た。」と後年母がよく話していた。

では、その売り上げ金は一体どこへ消えてしまったのか・・・。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

川端康成の「雪国」の冒頭である。東京上野に向かう石打の

次の駅が「雪国」の舞台となった越後湯沢である。

そして宿はあの「高半」 そこそこの金を懐に男二人が・・・。

あとは諸兄の皆様のご想像に託します。

かくして父は本格的にスキー靴を造り始めたのです。

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